Muscle Wins の矯正歯科治療
歯列矯正治療を受けてよかったと、患者さんから感謝されることは矯正歯科医の喜びである。しかし患者さんの咬合が、歯列矯正治療後いつまでも良い状態を保っているとは限らない。
矯正歯科医の近藤悦子先生は、歯列矯正治療後の咬合が数十年もの長期にわたって安定していた症例の経過を、1998年と2000年のアメリカ矯正歯科学会誌に発表された。治療結果が素晴らしいのは勿論、それが歯列矯正治療後も長期に安定していたのでアメリカやアジアの矯正歯科医の注目を集めている。
近藤悦子先生は、患者さんの咬合を改善するだけでなく、患者さんの姿勢を正し、唇や舌の働きを高めて口の働きを正常化しておられるのです。アメリカ矯正歯科学会誌の編集長であったTM グレーバー先生がこのことに注目され、咬合の長期安定の鍵としてMuscle Balanceあるいは Muscle Winsと言う言葉を加筆されたほどである。
このエポックメーキングな二つの論文を紹介する。
文献の紹介
Kondo E: Occlusal stability in Class II, Division 1, deep bite cases followed up for many years after orthodontic treatment. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 1998; 114: 611-30.
顎骨の成長期に矯正治療した被蓋の深い下顎遠心咬合の2症例について、矯正治療終了時の咬合とその後の変化とを頭部エックス線規格写真で分析した。
矯正治療終了時の咬合:
①AB平面(上顎骨前方部のA点と下顎骨前方部のB点を結ぶ平面)と上下顎臼歯の歯軸
は機能的咬合平面(臼歯部の咬合平面)に対して直角であった
②下顎切歯軸はDC-Lli線(下顎頭の中心点と下顎切歯切縁を結ぶ線)に対して直角であ
った
③前歯被蓋はほぼ切端咬合まで過剰に改善されていた。
治療後の発育期の経過:
顎発育中であったが①と②は変わらなかった。③は変化し、オーバージェットもオーバーバ
イトも上顎と下顎の発育期に増大した。
保定が終了し、上顎の発育が終わっても下顎だけが発育している期間に上顎切歯は唇側
へ傾斜し、下顎の発育終了期にはF線(上顎切歯舌面の基底結節変曲点と上顎切歯舌面
の最下点を結ぶ線)はCDM線(下顎窩前壁の傾斜)に平行になり、下顎切歯切縁はBp点
(上顎切歯舌面の基底結節変曲点)にほぼ接触していた。Bp点の接線はDC-Lli線に平行
か一致し、下顎切歯軸に直角であった。なお、DC-Lli線の傾斜は常に一定であった。
上顎切歯の唇側傾斜に伴うオーバージェットの増大は、下顎運動に対して前後的誘導の
役割をしていた。矯正治療後のCDM線と機能的咬合平面との角度は変わらず、下顎窩前
壁の傾斜が機能的咬合平面に協調して変化していると考えられた。

本論分の第1症例の咬合模型の矢状断面
A.治療前(9歳9ヶ月) , B.治療終了時(12歳4ヶ月) , C.保定後3ヶ月(12歳7ヶ月) ,
D.治療後2年(14歳4ヶ月) , E.治療後10年(22歳4ヶ月) ,
F.治療後29年(41歳7ヶ月)
Kondo E, Aoba TJ: Nonsurgical and nonextraction treatment of skeletal Class III open bite: Its long-term stability. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2000; 117: 267-87.
骨格性Ⅲ級で開咬と顎機能障害のある14歳5ヶ月と17歳3ヶ月の二人の女性患者さんの報告。二人とも、第一小臼歯の抜去と外科矯正が必要と診断されたことがあった。
骨格性と神経筋性の因子として、唇小帯と舌小帯が短かくて舌機能が制限されている、左右の咀嚼筋にアンバランスがある、鼻咽腔は部分的に閉塞し大臼歯が挺出している、下顎は上方回転して上顎歯列弓は狭窄している、咬合干渉によって下顎は閉口時に側方へ変位し、咬合平面とSpee弯曲はアンバランスで、顎関節の機能も形態も非対称であった。
治療によって、上顎歯列弓を拡大し、上顎骨の前下方移動と下顎骨の後下方回転を起こさせ、下顔面高をわずかに増大させた。そして大臼歯の圧下と整直、および上顎骨の前方牽引を行い、咬合平面を再構築した。
舌房は拡大して適切な気道が確保され、口裂周囲の状況が改善した。唇小帯と舌小帯の形成術を行ってから、筋機能療法とともにガムを噛みしめる訓練を実施し、ツースポジショナーも併用した。治療後に、鼻呼吸が獲得された。

本論分の第1症例の咬合模型の矢状断面
A.治療前(14歳7ヶ月)、B.治療開始6ヶ月(15歳1ヶ月)、C.治療後(16歳10ヶ月)、
D.治療後3年(19歳10ヶ月)、E.治療後10年10ヶ月(27歳8ヶ月)








